和の香りとして人気が高まっている塗香(ずこう)ですが、どんな原料が使われているのでしょうか。また、現代ではどのように使われるようになったのでしょうか。
塗香とは
塗香は、火を使わないお香のひとつです。火を使わずに常温で香る種類のお香は塗香のほかにも「匂い袋」「掛け香」「防虫香」「文香」などがあります。
塗香は数種の香木などを混ぜて粉末にし、粉末のまま乾燥したものです。手の平ですりあわせて手首などにつけます。
山中の祠(ほこら)などで水で手を浄められないときに心と身体を清めたり、あるいは写経をする前に手を浄めるために使ったりします。
本来は寺院などで僧侶が身を清めるめに使うものでしたが、一般の人も手に入れやすくなりました。火を使わず灰も出ないため旅行などに持っていくのにも向いています。
はじめはスパイシーな香りがしますが、しばらくすると甘い香りに変わっていきます。
香水のようなきつい香りではなく、優しく奥ゆかしい香りです。魔除けの効果もあるのも魅力のひとつと言えるでしょう。
ただし、自分の塗香を他の人に触られると、ご利益がなくなるといわれています。
塗香の原料
塗香はお香の中でも趣味的要素のあるものとは性質が異なり、仏教で身を清めるためのものです。
そのため動物性の香原料は殺生にあたるため使いません。ただし、香りを安定させ長持ちさせる「保香剤」として動物性の貝香(甲香ともいう)を使う場合もあります。
また、宗派によっては口に含んだりするため、樹脂系原料や合成香料も使いません。天然の香原料のみを使います。
【香木系】
原料名 | 英名 | 主な原産地 | 説明 |
---|---|---|---|
沈香(じんこう) | アガーウッド | ベトナム、タイ、マレーシア、インドネシア | 代表的な香木のひとつ。長い年月をかけて樹脂が化石化したものです。温めると樹脂が溶けて香ります。 |
白檀(びゃくだん) | サンダルウッド | インド、インドネシア | 香木の代表的な種類。樹脂が香る沈香とは違い、木そのものが香ります。常温でもよく香り防虫効果があるとされています。 |
【植物性】
原料名 | 英名 | 主な原産地 | 説明 |
---|---|---|---|
桂皮(けいひ) | シナモン | 中国、ベトナム、スリランカ、インド | 日本では「ニッキ」とも呼ばれており、古くから食用にも使用されています。薬用としての働きもあり、鎮痛、発汗、健胃薬などとしても使われています。 |
丁子(ちょうじ) | クローブ | インドネシア、マレーシア、アフリカ | 「丁字」とも書きます。フトモモ科の常緑高木の花つぼみを乾燥させたものです。東洋の代表的な香辛料として珍重されてきました。ツンとする刺激的な香りで防虫効果や防腐効果があるとされています。 |
山奈(さんな) | カチュールスガンディ | 中国、インド | ショウガ科バンウコンの茎の部分を乾燥させたものです。胃薬としての働きや虫除けなどの効果があります。ショウガに似た、すっきりとした香りがします。 |
龍脳(りゅうのう) | ボルネオール | インドネシア、マレーシア | 龍脳樹の隙間にできる白いうろこ状の結晶です。防虫剤や防腐剤として古くより使われています。清涼感のある香りで墨汁の香りづけや薬用にも使われています。 |
大茴香(だいういきょう) | スターアニス | 中国、ベトナム | シキミ科常用樹、トウシキミの実を乾燥させたものです。漢方薬の材料になるほか、杏仁豆腐の香りづけに使われています。さっぱりとした柑橘系の香りです。 |
甘松(かんしょう) | スパイクナード | インド、中国 | オミナエシ科の多年草の根や茎を乾燥させたものです。単独ではあまりよい香りはしませんが、他の香料と合わせると甘みのある香りになります。特に沈香との相性がよいとされています。 |
霍香(かっこう) | パチョリ | 中国、インド、マレーシア | シソ科のカワミドリの葉と茎の部分を乾燥させたものです。防虫効果があるとされています。アロマテラピーや香水のベースにも使われる少し甘いさわやかな香りです。 |
俳草香(はいそうこう) | ・・・ | 中国、インドネシア、マレーシア | シソ科のカワミドリの根を乾燥させたものです。漢方薬では霍香と同一のものとして用いられます。ほのかな甘い香りです。 |
安息香(あんそくこう) | ベンゾイン | タイ、インドネシア、 ベトナム | エゴノキ科の落葉樹の樹脂です。バニラに似た甘い香りがします。数種類の香料と混ぜ合わせるときに保香剤、または調合剤として用います。 |
乳香(にゅうこう) | フランキンセンス | アフリカ、中近東 | カンラン科の木の幹から染み出した樹脂がゴム状にかたまったものです。西洋の香料として代表的なものです。教会の儀式などに使われています。オリバナムともいいます。 |
零陵香(れいりょうこう) | フェヌグリーク | 中国 | サクラソウ科の多年草を乾燥させたものです。種子は「フェヌグリーク」というスパイスになり、カレー粉に入っていることもあります。辛味のきいた強い香りです。 |
木香(もっこう) | インド、中国 | 中国、ベトナム、スリランカ、インド | キク科の高山植物で枯れた後に根を掘り出して乾燥させます。さわやかな辛みと苦みのある香りで薬用としても用いられます。 |
塗香の調合
乳鉢に香原料を一種類ずつ入れて擦ります。入れては擦りを繰り返し、香りを確かめながら好みに合うように調香していきます。
不思議なことに他の人が同じ香原料を同量使って調合しても、香りが違うものになります。
そして、自分で作った香りが一番自分に合うやすらぐ香りになります。肌につけることで香りが変化し、更になじむようになります。
塗香入れ
塗香を入れるには木製の専用ケースがあります。素材は桜・黒檀・紫檀があります。持ち運びにも便利な小さい容器です。
塗香入れの代用品
桜や黒檀、紫檀の塗香入れも素敵ですが、ちょっとしぶすぎる…。と、ためらっている方に代用品をご紹介します。
- 七味ケース
木製のかわいい七味入れなら、デスクの上に置いてもOKです♪優しい木のぬくもりを感じられるデザインで見た目にもほっこり癒されますね。
七味入れ すずねこ
- スライドケースのミント缶
カルディのミントケースも代用品として、おススメです。コンパクトでデザインも可愛いです。でも、うっかりミントと間違えて開けないようにしないように気をつけてくださいね。
塗香の使い方
本来は僧侶が身を清めるために使用している塗香ですが、現代ではオーデコロンのように身につけたり、自宅でリラックスするときのアロマとして使う方が増えています。
軽くひとつまみを取り手の平でなじませてから、手首や髪に香水のように使います。
体調がすぐれない時や、イライラしている時など気持ちを和らげてくれます。まるで、写経をした時のような清々しい、凛とした姿勢、気持ちになれます。
塗香は香水と違いアルコールで揮発したりしないので、嗅覚に慣れが生じて香りの調整が難しくなると言った事もありません。自分の周りに薄いバリアを張ってくれているようにほのかに香ります。
小皿にきれいな色紙や半紙を敷き、指で三つまみ程度の塗香を乗せたものを玄関に置いたりと、気軽に楽しむことができます。
あるいは、パワーストーンにふりかけて浄化させる使い方もあります。手の平に少量の塗香をなじませ、パワーストーンを包み込むようにします。このとき、パワーストーン全体に塗香をいきわたらせようとする必要はありません。
金沢塗香体験
塗香は金沢の珍しいお土産としても人気があります。また、体験教室なども開催されているのでオリジナルの塗香を作ってみてはいかがでしょうか。
こちらは金沢にある「町屋塾」(石川県金沢市東山1-34-6)です。カフェでもあり、ワークショップでもあります。
ここのお店では香料をただ混ぜるだけでなく説明を受けながら一人ひとりの気持ちや体調に合わせてオーダーメイドの香をあつらえてもらうことができます。香司(こうし)のカウンセリングを受けながら調合していきます。
※香司(こうし)とは、香料選びから調合、仕上げまで、お香の制作に関する一切の責任を負う人のことです。天然香料についての専門知識と研ぎ澄まされた感性を持ち、伝統の製法に基づく奥深い香りを生み出すスペシャリストです。
本来、塗香は火で炊いたりはしませんが、香料の匂いの特徴がわかりやすくなるため炊いたりもします。そのままではわからなかった匂いも炊くことで印象が変わります。
塗香お試し
初めて塗香を買おうと思っても、どの香りがよいか迷いますよね。
塗香は身体につけると、その人の体温や体臭と混ざることで、その人だけの香りになります。特に男性と女性では、かなり違う香りになるようです。
塗香教室など、講師の指導のもとで調合する場合は好みの香りに仕上がります。しかし、そういった教室や直接お店に出向いて買うのではなくネットなどで購入する場合は、少量サイズのもので試してみるのがおすすめです。
実際に肌につけてみて、かぶれたりしないか、香りはどうかなど確かめることが大切です。
塗香そのものが自分に合うかを試してから、塗香教室に参加してみるのもいいかと思います。
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まとめ
僧侶が身を清めるために使用している塗香が現代では香水のような強い香りが苦手な人のアイテムとして使われるようになりました。
リラックス効果が高く、火を使うこともないので気軽に使用することができるのも魅力のひとつといえそうです。
上品な香りなので和のお稽古などにも邪魔をしません。ぜひ、ご自分のお好きな香りをみつけてくださいね。